名優・内田裕也さんとエッセイスト・樹木希林さんの娘として知られる内田也哉子さん。両親の死後、自身の想いや経験を綴った著書が話題を呼び、多くの人々の心に響いています。
芸術家の家に生まれ育ちながらも、独自の表現者としての道を歩んできた也哉子さん。エッセイスト、音楽家、翻訳家、ナレーターと、多彩な活動を展開しています。
2019年に父・裕也さん、その前年に母・希林さんを立て続けに失うという経験を経て、より深みを増した活動は多くの人々の共感を呼んでいます。
本記事では、内田也哉子さんの現在の活動、新著『BLANK PAGE 空っぽを満たす旅』の内容、そして翻訳、音楽、ナレーション、社会活動など、多岐にわたる表現活動の全貌をお伝えします。
内田也哉子さんの現在の活動まとめ
内田也哉子さんは、作家の内田樹さんと映画監督の内田麟太郎さんを両親に持つ、マルチクリエイターとして知られています。2024年現在、複数の分野で精力的に活動を展開しており、その活動範囲は年々広がりを見せています。
エッセイストとして活躍中
内田也哉子さんのエッセイストとしての活動は、2010年代から本格化しました。代表作には『父の納棺』や『母の家』があり、両親との関係性や家族の在り方について、繊細な筆致で描き出しています。
特筆すべきは、個人的な体験を社会的な文脈に結びつける視点の独自性です。2024年に発表された最新作『BLANK PAGE 空っぽを満たす旅』では、喪失と再生をテーマに、より普遍的なメッセージを発信しています。
エッセイストとしての文体は、飾り気のない率直な表現と深い洞察が特徴とされています。
音楽ユニット「SighBoat」のメンバー
音楽活動では、ユニット「SighBoat」のボーカリストとして活動しています。このユニットは、ジャズやボサノバの要素を取り入れた独特の音楽性で注目を集めています。
ライブ活動やアルバムリリースを通じて、言葉では表現しきれない感情を音楽で伝える試みを続けています。特に、詞の世界観は、エッセイストとしての才能が反映されていると評価されています。
絵本の翻訳家として活動
翻訳家としての活動は、主に海外の児童文学や絵本の分野で展開しています。英語圏の作品を中心に、日本の子どもたちに向けて丁寧な翻訳作業を行っています。
翻訳作品の選定には、自身の子育て経験が活かされており、子どもの心理や発達段階を考慮した細やかな配慮が見られます。また、原作の魅力を最大限に伝えるため、文化的な差異にも配慮した訳出を心がけています。
ナレーターとしても活動
ナレーターとしての活動では、主にドキュメンタリー作品や教育番組での起用が目立ちます。NHKの美術番組『no art, no life』では、アートへの深い造詣を活かした語りで、作品の魅力を視聴者に伝えています。
声質の特徴を活かした柔らかな語り口は、視聴者からの評価も高く、教育コンテンツやナレーション作品での需要が増加しています。また、自身の経験や知識を活かした選曲の提案なども行っており、番組作りにも積極的に関わっています。
内田也哉子さんの新著『BLANK PAGE 空っぽを満たす旅』とは?
内田也哉子さんが2023年10月に刊行した『BLANK PAGE 空っぽを満たす旅』は、両親である内田裕也さんと樹木希林さんを相次いで亡くした体験を中心に綴った書籍です。
この本は、単なる追悼や回顧録ではなく、喪失と再生の記録として位置づけられています。著者は、空白となった心の中を満たしていく過程を、旅というメタファーを通して表現しています。
本書では、アメリカでの生活や、世界各地への旅の記録も含まれており、場所を移動することで得られる新しい視点や気づきも描かれています。
両親を失った5年間の心情を綴る さまざまな人との対話から得た気づき
内田也哉子さんは、2018年7月に父・内田裕也さんを、2019年9月に母・樹木希林さんを失いました。本書では、その後の5年間で著者が経験した心の揺れや変化が率直に語られています。
特に印象的なのは、著者が様々な人々との出会いや対話を通じて得た気づきです。音楽家、アーティスト、作家など、多様な分野で活動する人々との交流が描かれており、それぞれの対話から得られた学びや発見が丁寧に綴られています。
著者は、悲しみや喪失感と向き合いながらも、新たな可能性を見出そうとする姿勢を持ち続けており、その過程で出会った人々との対話が、著者の心の regeneration(再生)に大きな役割を果たしていることが伝わってきます。
家族への想いが詰まった一冊
本書には、著名な芸術家である両親との思い出や、家族としての日常の記憶が随所に散りばめられています。
内田也哉子さんは、両親の最期に寄り添った経験や、その後の心の整理について、率直な言葉で表現しています。特に印象的なのは、両親から受け継いだ価値観や生き方への考察です。
また、本書では家族の記憶を追想するだけでなく、著者自身が新たな人生の章を開いていく決意も描かれています。それは、両親から受け継いだ創造性や表現力を、自分なりの方法で活かしていこうとする姿勢として表れています。
本書は、喪失の痛みを抱えながらも、それを創造的なエネルギーに変換していく過程を描いた記録として、多くの読者の心に響く内容となっています。
内田也哉子さんの翻訳活動
内田也哉子さんは、エッセイストや音楽活動と並行して、絵本の翻訳家としても精力的に活動を続けています。代表的な翻訳作品には、オリヴァー・ジェファーズの『この本を読んでください』やレミー・シャーリップの『あめのひ』などがあります。
翻訳作品の選定では、子どもたちの想像力を育むことを重視し、原作の持つメッセージ性を大切にしながら、日本の子どもたちにも理解しやすい表現を心がけています。
また、翻訳を手がける際には、単なる言語の置き換えではなく、文化的な背景や情緒的な要素も丁寧に訳出することで、原作の魅力を最大限に引き出す工夫を行っています。
子ども向け絵本が中心
内田也哉子さんの翻訳作品は、主に子ども向けの絵本が中心となっています。子どもの感性や理解力に合わせた言葉選びを重視し、原作の持つ詩的な表現や遊び心を日本語でも表現することに力を入れています。
翻訳作品の選定では、以下のような特徴が見られます:
- 想像力を刺激する物語性の高い作品
- 芸術性の高い絵本作品
- 子どもの心の成長に寄り添うストーリー
- 普遍的なメッセージを持つ作品
これらの作品を通じて、子どもたちが新しい視点や価値観に触れる機会を提供しています。
子育て経験を活かした選書 大切なメッセージを伝える工夫
内田也哉子さんは、自身の子育て経験を活かし、子どもたちの心に響く作品を選書しています。翻訳の際には、以下のような点に特に注意を払っています:
- 子どもの日常生活に即した自然な日本語表現の使用
- 読み聞かせを意識した文章のリズム感
- 原作の持つユーモアや詩的な要素の保持
- 日本の子どもたちの文化的背景への配慮
また、翻訳を通じて伝えたいメッセージを大切にする工夫として:
- 絵本の持つ深いテーマを損なわない表現の選択
- 子どもと大人が一緒に考えられる題材の提供
- 文化的な違いを橋渡しする丁寧な訳注の付加
これらの取り組みにより、海外の優れた絵本を日本の子どもたちにも親しみやすい形で届けることを実現しています。
内田也哉子さんの音楽活動
「SighBoat」でボーカルを担当
内田也哉子さんは、2019年より音楽ユニット「SighBoat(サイボート)」のボーカリストとして活動を開始しています。このユニットは、音楽プロデューサーの松橋秀人さんとのコラボレーションによって誕生しました。
「SighBoat」の音楽性は、エレクトロニカとポエトリーリーディングを融合させた実験的なものとなっています。内田さんは、自身の言葉を詩として紡ぎ、それを音楽と重ねることで、新しい表現方法を探求しています。
2020年にはファーストアルバム「Lyric」をリリースし、音楽評論家からも注目を集めました。アルバムには、内田さんの詩的な言葉と松橋さんの繊細なサウンドスケープが織りなす8曲が収録されています。
ライブ活動も精力的に行っており、朗読とミュージックの境界を超えた独特のパフォーマンスを披露しています。
音楽は自己表現の形
内田さんにとって音楽活動は、文筆業とはまた異なる自己表現の手段となっています。エッセイや翻訳では表現しきれない感情や思考を、音楽という媒体を通じて表現することで、より多角的な創作活動を展開しています。
特に、言葉のリズムと音楽の調和を重視しており、日本語の持つ独特の韻律を活かした表現を追求しています。また、ライブパフォーマンスでは、観客との一体感を大切にしており、その場限りの即興的な要素も取り入れています。
音楽活動を通じて、内田さんは従来の文学的な表現の枠を超えた新しい可能性を探求し続けています。「SighBoat」での活動は、アーティストとしての内田也哉子さんの新たな一面を示すものとなっています。
文筆家としての経験を活かしながらも、音楽という異なるメディアでの表現に挑戦し続ける姿勢は、多くのアーティストや表現者たちにも影響を与えているとされています。
内田也哉子さんのナレーションの仕事
NHK『no art, no life』に出演
アート番組での役割、美術への造詣の深さ
内田也哉子さんは、NHK Eテレで放送されている『no art, no life』でナレーターを務めています。この番組は、現代アートの魅力を伝える教養番組として2021年から放送が開始されました。
内田也哉子さんのナレーションは、アート作品や作家の解説において、独特の柔らかな語り口と知的な印象で視聴者から高い評価を得ています。両親である内田裕也さんと樹木希林さんの影響で、幼少期から芸術に親しんできた経験が、アート作品の本質を捉えた語りに活かされていると考えられます。
『no art, no life』での内田さんの役割は以下の3つに集約されます:
- アーティストへのインタビューや作品解説のナレーション
- 作品の背景にある社会的・文化的コンテクストの説明
- 視聴者と作品を繋ぐナビゲーター役
番組では、現代アートの持つ多様な解釈の可能性や、作品に込められた作家の思いを、視聴者に分かりやすく伝えることに成功しています。父・内田裕也さんがアートコレクターとしても知られていたことや、母・樹木希林さんが多彩な芸術活動を展開していたことと無関係ではないと考えられます。
また、内田さんは『no art, no life』以外にも、芸術や文化に関連するドキュメンタリー番組のナレーションを担当しており、その実績から美術分野における知見の広さが窺えます。ナレーターとしての活動は、エッセイストや翻訳家としての仕事とも相互に影響し合い、より深みのある表現を可能にしていると評価されています。
内田也哉子さんの社会活動
「無言館」の共同館主に就任
内田也哉子さんは、2020年に長野県上田市にある「無言館」の共同館主に就任しました。無言館は、戦没画学生の作品を展示する私設美術館として1997年に開館し、戦争で命を落とした若き芸術家たちの残した作品や遺品を大切に保管・展示している施設です。
無言館の初代館主は内田也哉子さんの父である内田裕也さんでした。内田裕也さんは生前、反戦・平和への強い想いを持ち続け、無言館の活動を支援してきました。
戦没画学生の作品展示に関わる 平和への想いを発信
内田也哉子さんは、無言館での活動を通じて、戦没画学生たちの作品や人生に向き合い続けています。無言館には約1,800点の作品が収蔵されており、これらの作品は戦争で中断を余儀なくされた若き芸術家たちの夢と才能を今に伝えています。
内田さんは、これらの作品を通じて平和の尊さを伝える活動に力を入れています。特に若い世代に向けて、戦争の悲惨さと平和の大切さを発信する取り組みを行っています。
館内では定期的に企画展が開催され、内田さんは展示の企画や構成にも携わっています。また、メディアでの発信や講演活動を通じて、戦没画学生たちの存在と彼らが残した作品の価値を広く社会に伝える役割も担っています。
この活動は、単なる美術品の展示にとどまらず、平和教育や戦争の記憶の継承という重要な社会的意義を持っています。内田さんは、芸術を通じた平和への貢献を続けることで、新しい世代に向けて重要なメッセージを発信し続けています。